イジワル同期とスイートライフ
まったくタイプは違えど、私たちは昔から仲がよかった。

が、姉は時折、確信犯的に世間知らずを発揮することがある。

今日みたいなのがそれだ。



「あのね、お姉ちゃん、何度も言うけど、来るときは事前にね」

「いっぱいあるから、賢児くんもどうぞ」

「あ、どうも…」

「聞きなさい!」

「リコちゃんに彼がいるなんて知らなかったよ、いつからつきあってるの」



足りないフォークや取り皿を出すために、久住くんがキッチンへ行った。

逃げたな。



「えーと…一ヶ月くらい?」

「えっ、そんなつきあいたてなの? じゃあラブラブだ!」

「いや、それはどうだろう…」



姉からは死角にいる久住くんと、目が合う。

不自然な受け答えしてんじゃねえよ、とその目が言っていた。

はい、すみません。



「ごめんね、ゆっくりしてたとこに押しかけて」



別にいいよ、と言おうとしたとき、姉の視線がふとベランダに向いた。

あ。

そこには、意味ありげにシーツがひるがえっている。

そして久住くんは、どう見てもシャワーから出たてである。

姉の目がだんだんと見開かれ、頬がピンクに染まった。



「うわあ…ごめんねえ、ほんと」

「違うから…謝んないで、お願い」



実際のところは、明け方にお互い目を覚まして、夢うつつの中で一度抱き合っているので、言うほど"違う"わけでもない。

恥ずかしさのあまり、私までうつむくはめになった。


デリだけだと少し足りなそうだったので、私はスープでも作ることにした。

久住くんを姉とふたりにしてしまうけれど、それはそれで面白そうだし、正直なところ、困っている姿を見たくもある。

自分が招いた事態だ、ざまーみろ、みたいな感じだ。

キッチンで調理をしながら部屋の中をうかがうと、久住くんは姉の質問攻めにあいつつも、それらしく対応しているようだった。

< 34 / 205 >

この作品をシェア

pagetop