イジワル同期とスイートライフ
海外市場に新商品が入るのは、国内市場からだいたい2か月遅れだ。

これはまず輸送に日数がかかるのと、国内の導入で万が一不具合などが見つかった場合、出荷前の段階で吸収できるよう日程に余裕を持たせているせいだ。



『って言われてるけど、ぶっちゃけ国内部門が、そんなに早く海外に展開されてたまるかってがんばってるだけだと思うぜ』



とは久住くんの言で、私もそうなんじゃないかという気がしている。

やっと40代に入ったばかりの、営業部の中ではかなり若い課長が、んーと渋い顔を作って腕を組んだ。



「当分補充はないってことか。海外営業はやっぱり特約店会議を軽く見てるのかって声が上がりそうだなあ」

「ありそうですねえ」



WDM の運営部分を担当する課員の男性がうなずいた。

確かにありそうだ。

国内営業部のどこからともなく、そんな声が飛んできて、企画課なにやってる、と叩かれるんだろう。



「課長かわいそう」

「あのね。いや僕も矢面がんばるけど」



8名いる課員から口々に同情され、課長が肩を落とす。

私たちの知らないところで、いろいろと苦労があるに違いない。



「まあそれはいいや、まずは当面、海外営業の担当がひとりでも回るように、やり方考えてね。承認が必要なら僕を使ってもらっていいから」

「あの、それなんですが」



私は軽く挙手をして、考えていたことを提案した。





「運営会議に?」

「そう、最初は忙しくさせちゃうかもしれないんだけど、ここまで来たら、私たちが取りまとめるより間違いも少なくて、速いと思うんだ。反則技なのを承知で言うと、広告代理店さんと直接やりとりしてほしいの」



午後に時間が取れるというので、食堂の片隅のカフェスペースに久住くんを呼び出した。

ごちそうしたコーヒーを飲みながら、久住くんが思案げに窓の外を見る。



「その代理店て、昔からやってんの」

「WDM? うん、ずっと担当してくれてる」

「じゃ、ノウハウも持ってるし、現場の空気も知ってるんだな」

「担当営業さんもずっと同じ人だから、むしろ私たちのほうが入れ替わり激しくて、教わりながらやってるくらい」

< 54 / 205 >

この作品をシェア

pagetop