イジワル同期とスイートライフ
久住くんが私を見て、ひとつうなずいた。



「オーケー。やりとりには国内営業を入れるようにするから、必ず目を通してくれ。いきなり手を離されたら、さすがに迷子になる」

「もちろん、こちらもそのつもり。私と幸枝さんを入れて」

「運営会議ってのはいつなんだ?」

「いつもの定例会の翌日なの、つまり今日」



定例会で出た課題を持ち寄り、解決策を話し合い、次週の予定を立てるのに、そのサイクルがちょうどいいのだ。

久住くんも、「もっともだな」と同意してくれる。



「でも午前中に済んじゃったから、来週からだね。もし急な打ち合わせが発生したら呼ぶよ、顔合わせだけでもなるはやでしたいし」

「頼む。俺、来週はほぼ席にいるから」

「ありがとう」



よかった、忙しくて受けてもらえない可能性も考えていた。

一緒に仕事をしているとはいえ、今回の場合は、私たち国内側が海外営業に対して協力をお願いしている形だ。

久住くんたちからすれば、海外事業のかの字も理解していないような素人からいきなり声をかけられて、やってみたらみたでやっぱり穴だらけで、当初の想定よりかなり負荷が増しているはずだ。



「向井さんが抜ける件、そっちで問題になってないか?」

「えっ? えーとね、今のところは大丈夫」

「もしなにか言われるようなら俺、説明に行くぜ。俺じゃ不足なら、課長からも話すって言ってもらえてる」

「え…」

「六条たちが責められんのも変な話だろ。でも国内ってそういうこと本当に起こりそうだしな」



私は久住くんに、そこまで国内営業の恥部を語ったことはない。

これまでのつきあいの中で、こちらの空気を観察していたんだろう。

そして今回、私たち企画課の立場を慮って、上と相談しておいてくれたのだ。

かなわない。



「あっ、久住さん、お帰りなさい!」



ん?

突然かわいらしい声が飛び込んできた。

何事かと見てみたら、昨日のあの子だった。

久住くんが不在で、がっかりしていたふたり連れのうちのひとり。

テイクアウトのコーヒーカップを両手で持って、嬉しそうに話しかける。



「どうでした、シンガポール?」

「ほんと一瞬しか滞在できなくて、ほぼ素通りだったよ」

< 55 / 205 >

この作品をシェア

pagetop