イジワル同期とスイートライフ
抑えた愛想のよさで応じる久住くんは、私の知っている彼ではなく、年下の女の子を相手にするモードに入っていた。

要するに、扱い慣れていた。



「教えてくれた店、行ったよ。あんないいとこで食ってたの?」

「いえいえ、ホストファミリーのお気に入りのお店で」

「なるほどね。自分持ちだったら入るのやめてたくらい豪華だった」

「私もずっと行きたかったんです、どうでした?」

「うまかったよ、さすがのクオリティで」



そこで思い出したように、内ポケットからカードケースを取り出す。



「これあげる、店の名刺」



厚手の艶やかなカードを受け取り、女の子が頬をピンクに染めた。



「あ、ありがとうございます」

「またいいとこあったら教えて」

「はい!」



毛先をゆるく巻いたポニーテールがちぎれそうな勢いで頭を下げると、走ってカフェを出ていく。

私の視線に気づいているであろう久住くんは、どこ吹く風でコーヒーをすすってから、ふいに携帯の背中をこちらに向けた。

カシャ、という音がする。



「ちょっと」

「お前、自分で見てみろ、その顔」

「いいよ」



やだ、どんな顔してたんだろう。

無理やり見せられた画面の中の私は、明らかにつまらなそうな顔をしているものの、これを久住くんがどう受け止めたのかはわからない。



「消してよ」

「お前が反省したらな」

「反省って」

「昼んときだって、露骨におっかない顔しやがって。なんなんだよ、俺が言い訳しないとならないのか?」



おっかない顔なんてしてない!

いや、どうだろう、していたのかもしれない。

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