イジワル同期とスイートライフ
振られた久住くんが振り返った。



「このマンションは女性にご好評いただくんですよ、洗面台も独立ですし、作り付けの姿見があったり」

「へえ」



久住くんは彼らしく慎重に、軽率な賛同を避けて聞いている。

やがて彼は、感触を得たふうにうなずきながら、玄関に戻ってきた。



「場所がなあ」



店舗に戻る道すがら、デニムのポケットに片手を入れて、周囲を見ながらつぶやく。



「静かそうでいいじゃない」

「や、静かすぎだろ、駅からちょっと距離もあるし、危なくねえ?」

「そういうの、気になる人?」



意外だな。

ひったくりに遭った経験でもあるのかなと驚くと、「俺じゃねーよ」と眉をひそめられた。



「お前だよ」

「え…」

「だって、来るだろ?」



…そりゃ。

呼ばれたら、行くけど。

そんな反応しか思いつかなくて、言葉を飲み込んだ。



「お前んちのあたり、ちょうどいいんだよな、静かだけど便利で、店もあって」



そこそこ譲れない条件らしく、うーんと首をひねっている。

突き上げるような感情が湧いた。

それなら。

それならさ。



「…まあ、いいところが見つかるまでうちにいたらいいよ」

「いや、でも、悪いだろ」



悪くないよ。

とは、本音すぎて言えなかった。



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