イジワル同期とスイートライフ
逃げられない
「対訳表できたぜ、後で送る」
「ほんと、ありがとう」
「同通なんだけどさ、英中も入れられないか?」
同時通訳を同通と略すのを、この仕事で知った。
海外側の担当が久住くんだけになったというのは、案外いいこともあって、それはたとえば、彼とだけ話せば事足りたりするあたりだ。
受付フロアですれ違ったのを機に、待合スペースのソファで軽い情報交換をしているうち、簡単な打ち合わせみたいになってきた。
隣り合って座り、PCを覗きながらあれこれ話し合う。
「中国の販社の方たちは英語使わないの?」
「実は日本語ペラペラな人が大半なんだよ。日本語が得意じゃない人とは、英語でやりとりすることもあるけど」
そうなのか。
向こうからしたら、私たちが英語を学ぶような感覚で、取引先の言語である日本語を身に着けるのかもしれない。
「確認しとく。問題は予算だけだと思うから」
「厳しかったらうちで持つよ」
「持てるの?」
そんな簡単に費用を捻出できるものなのかと驚くと、久住くんのほうも目を丸くした。
「必要なことに使わずに、なんのための金だよ?」
言ってみたい、こんな台詞。
そうだった、彼はまったく違う土壌で仕事してきている人なんだった。
「じゃあ、こっちで承認もらえなかったらお願いするかも。でもがんばるよ」
「お前ががんばる話なのか?」
「にんじん嫌いの子に食べさせようと思ったら、わからないよう混ぜ込むか、身体にいいんだからと押し切るか、それなりに作戦を練るでしょ」
「コストが増えること自体にアレルギーがあるわけか」
「そう」
ため息をつくと、同情の視線をもらった。
「おや、なにしてるの」
そのとき、廊下を通りかかった人影が、私たちを見て足を止めた。
幸枝さんだ。
「ほんと、ありがとう」
「同通なんだけどさ、英中も入れられないか?」
同時通訳を同通と略すのを、この仕事で知った。
海外側の担当が久住くんだけになったというのは、案外いいこともあって、それはたとえば、彼とだけ話せば事足りたりするあたりだ。
受付フロアですれ違ったのを機に、待合スペースのソファで軽い情報交換をしているうち、簡単な打ち合わせみたいになってきた。
隣り合って座り、PCを覗きながらあれこれ話し合う。
「中国の販社の方たちは英語使わないの?」
「実は日本語ペラペラな人が大半なんだよ。日本語が得意じゃない人とは、英語でやりとりすることもあるけど」
そうなのか。
向こうからしたら、私たちが英語を学ぶような感覚で、取引先の言語である日本語を身に着けるのかもしれない。
「確認しとく。問題は予算だけだと思うから」
「厳しかったらうちで持つよ」
「持てるの?」
そんな簡単に費用を捻出できるものなのかと驚くと、久住くんのほうも目を丸くした。
「必要なことに使わずに、なんのための金だよ?」
言ってみたい、こんな台詞。
そうだった、彼はまったく違う土壌で仕事してきている人なんだった。
「じゃあ、こっちで承認もらえなかったらお願いするかも。でもがんばるよ」
「お前ががんばる話なのか?」
「にんじん嫌いの子に食べさせようと思ったら、わからないよう混ぜ込むか、身体にいいんだからと押し切るか、それなりに作戦を練るでしょ」
「コストが増えること自体にアレルギーがあるわけか」
「そう」
ため息をつくと、同情の視線をもらった。
「おや、なにしてるの」
そのとき、廊下を通りかかった人影が、私たちを見て足を止めた。
幸枝さんだ。