イジワル同期とスイートライフ
「やっぱりな、目を離したら絶対逃げると思ったぜ」



青白い蛍光灯が、彼の顔を逆光にしている。

なにも言わない私に、久住くんはちょっと困った顔をすると、ようやく手を離してくれた。



「怯えんなよ、乱暴だった、ごめん」

「ううん…」



捕まれていた二の腕が鈍く痛む。

そこをさすりたい衝動に駆られたけれど、久住くんの視線が気になってやめた。



「あの、私、帰りたいんだけど」

「帰ってもそんな態度なんだろ、俺、そういうの嫌なんだよ」

「じゃあ、普通にするから」

「ちょっと待て」



再び逃げようとしたところを、身体の前に回された腕であっさり引き戻された。

一瞬、片腕で抱きかかえられるような形になって、軽く足が浮く。

大柄でもない身体の、どこにこんな力があったのかと驚いた。



「なにが引っかかってんだよ、教えろ」

「別に…」

「嘘つけ」



久住くんの片手が、私の肩を壁に張りつけるように押さえる。

そうされると、まったく身動きが取れない。

ここまで来たら、納得するまで解放してくれないだろう。



「…もう、こういうの、やめてもいいかなって」

「こういうのって?」

「つきあうとか…」



久住くんが眉をひそめた。



「それが、さっきの話となにか関係あるのか?」

「だって、おかしいと思わない? 幸枝さんは真剣だったのかもしれないのに」

「別に俺だって、不真面目なつもりないけど」



そういうレベルの話をしてるんじゃないよ!

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