イジワル同期とスイートライフ
顔をそむけても、追ってきて塞ぐ。

手が私の後ろ髪を掴んで、上を向かせた。



「言えよ」



涙が目尻を伝った。

お構いなしに、久住くんは貪るようなキスを浴びせた。

冷たくなった涙が、こめかみを濡らした。


言えるわけない。

終わりにしたいなんて思っていない。

幸枝さんのことなんて全部詭弁だ。

都合よく言い訳に使おうとしていただけ。


ねえ、昨日は確かに遅かったけど、普通に帰ってきたよね。

お酒を飲んでるなってわかったけど、誰と飲んだのなんて、必要もないから訊かなかった。

訊いたら教えてくれた?

あのときにはもう、幸枝さんといろいろ話した後だったんだよね。

私が知らなかっただけで。


そういうの、考えだしたら耐えられなくなったの。

思ってないよ、終わりにしたいなんて。

だけどもう、このままじゃつらい。



「なあ、六条」



いつの間にか私は、久住くんの両腕に抱きしめられていた。

唇を合わせながら、私もしがみついた。

火がついたことに、お互い気づいていた。

まるで身体のどこかに燃料が隠れていたみたいに、一気になにかが燃え上がって、指先まで広がった。



「六条…」



熱っぽいささやきが耳を濡らす。

私たちはどちらも、家までもたないことを自覚していた。

学生かよ、とぼやきながら、会社の裏のビジネスホテルに入る始末で、部屋のドアが閉まるのも待ちきれず相手の服に手をかけた。

身体を重ねるのは、彼が出張から帰ってきた日の夜以来で、久住くんはあのときと同じように、今回も無口だった。

でもそれは、前みたいに余裕がないせいというよりは、今日はそうすると決めているように感じられた。

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