イジワル同期とスイートライフ
自分に言い聞かせるような久住くんのつぶやきを、ぼんやり聞いた。


──友達に戻るとか、考えられない。


ねえ久住くん、それってさ。

つまり私には、ただの同期に戻る道は、残されていないってこと。

終わりにしたいと言ったが最後、顔も合わせたくない存在になるってことだね。


冷たい汗が、心まで冷やした。

どうしよう。

今けっこう、崖っぷちの気分だ。





「どう見ても本人だ…」

「そりゃそうでしょ、あんな珍しい苗字」



ほんの少しの希望を捨てきれずにいたらしい久住くんが、私のもらった名刺を見て、絶望の表情になった。



「しかも昇格してやがる」

「いつ頃つきあってたの」

「新人の頃から、2年くらいだな」



う、けっこう長い…。

でも、それが最後ということは、ここ2年くらいは彼女なしだったってことだ。

しばらく彼女はいなかったと言っていたのは、本当だったんだ。

ベッドに並んで寝そべりながら、久住くんの持っている名刺を覗き見た。

花香良子、とある。



「りょうこさん?」

「これ、よいこって読むんだよ、まさかの」

「まさかだね」



裏面のアルファベットを見たら、確かにYoikoと書いてある。



「すげー自分の名前嫌っててさ、呼ぶと怒ったなあ」

「へえ」



なにを素で元カノの思い出を語っていらっしゃるのか。

それは今カノに対する正しい態度なのか。

思わず冷ややかな相槌になったんだけれど、再会の危機に戦慄する久住くんには伝わらなかったらしい。

もしくは、私がそんなことを気にするなんて、思いもしていないのかもしれない。

へこむ。

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