イジワル同期とスイートライフ
改めて話すと、それだけ? という内容だ。

それだけなのに、40分も拘束されてしまった。



「でも、今回のホテルも便利な場所だよね」

「まあ、無断で変えられたこと自体が面白くないのと、どうやらいつものホテルの近くに、行きつけのお店があったようなんですね」

「お店って」

「おそらく、女の子のいるような」



地方から出てくる特約店のVIPたちと豪遊するのだ。

関係者にとっては、2年に一度のお楽しみだったらしい。

二駅ほど離れたところに確保したホテルでは、遊び倒すのに不都合なわけだ。


どこかで国内営業の不満をぶつけられるだろうと覚悟していたものの、こんなくだらない内容だとは。

しかも宿泊先についてはとっくの昔に通達してあるのに、今頃。

きっと営業員が、最近になってようやく上とスケジュールの話を始めたんだろう。

くたびれた頭をリセットしようと深呼吸したとき、向かいに座っていた久住くんが、気遣わしげに口を開いた。



「それ、海外の特約店が来るせいで、変えたんだよな?」

「うん、そうなんだけど、それは別に」

「そんな話、俺らに回してくれたら、こっちで受けるのに」



いやいや。

これは立派な内輪もめだ。

こんなことで海外営業を煩わせたら、かえって立つ瀬がない。



「大丈夫だよ、最終的には納得してもらったし」

「どうやって」

「新しいホテルのほうが格が上なんですが、と」



わかりやすい、と一同がうなずく。



「課長がいないタイミングを狙って来た感じなのもね」

「向こうも、いちゃもんだって自覚あるんですよ。課長には報告メール打っておきました」



さあ、こんなつまらない一件は忘れて、建設的な打ち合わせをしよう。

そう切り替えようとしたところで、久住くんと目が合った。

彼はどうしてか難しい顔で、こちらをじっと見て、やがて視線を逸らした。



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