今、2つの色で


楠森から発されたのはどう考えても女だと分かる名前で、俺は思わずその背中へ視線を動かした。


彼女、いたのか。


さっきまで必死に東条の誤解を解こうとしていた俺が、なんだかバカバカしく思えた。


コイツにとっては、もう東条のことなんかずっと昔の話で。


気にしていたのは俺だけだったと思うと。


気が軽くなったような感覚と同時に…俺の知らない楠森を知った気がして、何かに拒まれた感覚もした。


「このあと?うん分かった、いいよ、じゃあね」


楠森はそれだけ言うと、スマートフォンを耳から離す。

< 252 / 500 >

この作品をシェア

pagetop