愛しのカレはV(ヴィジュアル)系




「……って、わけなんだけど、瑠威…どう思う?」

夕食の場で、ママが早速バイトのことを瑠威に話してくれた。



「バイト自体は良いことだと思う。
しかも、藤堂さんの所なら心配ないしな。」

「それじゃあ…」

喜びかけたら、瑠威の視線が急に厳しくなった。



「とりあえず、ひとつ聞いておきたいことがある。」

「な、何なの?」

「おまえ、今までは小遣いで賄ってたよな?
なのに、なんで急にバイトしたいなんて思ったんだ?
何に使う金なんだ?」

「あ…その…それは……」

どうしよう?
正直に言ったら怒られるかな?
でも、嘘を吐くとしたらなんていえば…



「どうした?言えないのか?」

「じ、実は、今度のシュバルツのライブに着て行く服が欲しくて…」

「え?」

「久しぶりのシュバルツのライブだし、みんな気合い入ってるんだ。
それで、服も新しいの買おうって、さゆみと盛り上がって…でも、こないだ買ったばかりだし…もうお金があんまりなくて、それで…」

瑠威は、一瞬呆れたような顔をして、小さな溜め息を吐き出した。



「あのなぁ…ライブの度に服なんて買ってたら、金ばっかかかるぞ…」

「瑠威…気付いてないの?
ファンの子達が、ライブの度にどれだけおしゃれして来てるか。」

「え?だけど、服なんて…」

「あのね…ライブっていうのはある意味、現実とは違う異空間なの。
望結もだけど、普段とは違うおしゃれをして、普段とは違う自分になって、いやなことも辛いことも忘れられる夢の世界なのよ。」

ママ!その通りだよ!
私の言いたいことを全部ママが言ってくれたから、私は何度も深く頷いた。



「瑠威だって、そうでしょ?
ステージに立って歌うあなたと、図面を引いたり、現場で働くあなたとは別の人よね。」

瑠威は、ママの顔を見ながら、やがてゆっくりと頷いた。



「……確かにそうだよな。」

「それにね、望結は今まで服装には本当に無頓着でね。
瑠威だって言ってたじゃない。
初めて望結の部屋着を見た時…あれはひどすぎるって。
だから、おしゃれに興味を持ってくれたことが、私はちょっと嬉しかったりするのよ。」

な、なんだって!?
瑠威ったら、そんなこと思ってたの!?
ひどーーい!!


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