愛しのカレはV(ヴィジュアル)系
「あ、あ、ご、ごめんなさい!
私…気付いてなくて…
あの、おいくらでしたか?」

「そんなんええって。
ヅラちゃんと一緒に食べれて楽しかったし。」

「だ、だめです!
払います!」

「僕ら貧乏やけど、いくらなんでもこのくらいは大丈夫やから。
気にせんといて。
こんなもんも割り勘にされたて言われたら、かっこ悪いし。」

「わ、私、そんなこと言いません!」

私がそう言うと、キースさんは小さく肩を揺らした。



「ヅラちゃん、今のは冗談や。
そんなんでは大阪で暮らされへんで。」

「え…え…ご、ごめんなさい!」

「……ほんまに、ヅラちゃんはおもろいなぁ……」

どう言ったら良いのか私は焦ってるのに、キースさんは優しい笑顔を浮かべてた。
その顔を見ていたら、なんだか気持ちが落ち着いて来て…



「じゃ…じゃあ、今日はご馳走になります。
キースさん、ご馳走様でした!」

私は深く頭を下げた。
頑なに払うっていうのもなんだかいやらしいし、今日は素直におごっていただこう。



「ヅラちゃん…あんなんでそんな大げさなことせんとって。
却って、僕、はずかしいわ。」

「ご、ごめんなさい!」

「だから~…謝らんでええんやて。」

え?え?どういうこと?
私、どうすれば良いの?



困っていたら、駅の改札が見えて来た。



「ほな、これ……」

「本当にどうもありがとうございました。」

私はレジ袋を受け取った。



「気ぃ付けて帰るんやで。」

「はい、ありがとうございます。」

改札を抜けたら、手を振りながら、キースさんがこう言った。



「クラウン、ギタリスト、天使。」

「何ですか?」

「わかったら偉い。
じゃあな、ヅラちゃん!」

キースさんはにこやかに手を振りながら、離れて行った。



(今の……何?)



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