愛しのカレはV(ヴィジュアル)系




「おまえ…本当にどんくさいな…」

「ご、ごめんなさい…」

普段、こんなに歩くことがないせいか、それとも、おろしたての靴のせいなのか…
山道を歩いているうちにだんだん足が痛くなって来て…我慢して歩いてたけど、そのうち、どうにもたまらない程痛くなってしまい、仕方なく、そのことを打ち明けた。



「きゃっ!」

私の足の傷を見て、さゆみが視線を逸らした。
痛々しい傷…典型的な靴擦れだ。



「あ~あ……こりゃひどいな。
誰か、絆創膏持ってるか?」

「あ、はい、私、持ってます!」

さゆみが絆創膏を出してくれた。



「じっとしてろよ。」

「あ、私…自分で…」

リクさんは絆創膏を受け取ると、私の足を持ち上げ、手際良く絆創膏を貼ってくれた。



「ど、どうもありがとうございます。」

「ほらっ!」

傷の手当てが終わったら、リクさんが私の前にしゃがみこむ。



「……え?」

「早くしろよ。」

「え、えっと……」

「ヅラちゃん、おんぶや。
リクがおんぶしてくれるてゆーてんねん。してもらい。」

「えーーーっ!わ、私…歩けますから。」

「ちんたら歩いてたら遅くなるだろ。
さっさと乗れって!」

確かに足は痛かったけど…でも、大人になっておんぶなんて恥ずかしい。
だけど、リクさんの言い方がすごく怖かったから、私は断ることも出来ず、仕方なく言われるままにリクさんの背中に乗った。



「さ、行くぞ。」

「どうや、ヅラちゃん、眺め良うなったやろ?
頂上まではあと少しやからな。」

「は、はい。」

キースさんは暢気なことを言うけど、景色を眺める余裕なんてないってば…
さっきからとってもドキドキしっぱなし。
リクさん、怒ってるみたいだし、それでなくてもこんなに男の人と密着したことなんてないし、私のこの速い鼓動がリクさんにバレないかと心配だ。
だけど、なかなか落ち着いてはくれない。
リクさんの髪からは甘いシャンプーの香りがするし、体温も伝わってくるし、息遣いも…
こんな状況で、落ち着いていられるはずがない。

私は、リクさんの背中で早く頂上に着くことをひたすら祈っていた。
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