愛しのカレはV(ヴィジュアル)系
「リクさん…!いい加減にして下さい!
私…知ってるんです。
あなたがすでに結婚して、子供までいることを…」

私がそう言うと、リクさんはとても驚いた表情を浮かべた。
まさか、私がそのことを知ってるなんて思ってもみなかったんだろうね。

私は、ライブの帰りに、ゴスロリの二人組に教えてもらったことを話した。



「……そんなのデマだ。」

リクさんは、眉間にしわを寄せ、首を振る。



「デマですって?
私…日曜に公園に確かめに行ったんですよ!
そこで偶然見たんです。あなたが、あなたに良く似た男の子とボール遊びをしているところを…それに、とても綺麗な奥さんを…」

そのことを話したら、なんだか涙が出そうになった。
あの時の光景がまざまざと頭をかすめる…
でも、今日は絶対に泣かないんだから…そう思って、唇を噛み締め、必死に堪えた。



「それは望結の早とちりだって!」

「おまえ、許せねぇ!結婚してるくせに望結を弄んだのか!」

「だから…違うって言ってるでしょう!」

「いい加減なことを言うな!」

「あれは、妹の海とその息子の空です!
疑うなら戸籍でもなんでも見せますよ!」



(……え?)



妹とその息子…??



「全部話すから聞いてくれ…」



リクさんは自分の身の上を話してくれた。
まだ高校生の時に事故で両親をいっぺんに亡くし、それからは妹さんと二人で生きてきたのだと。
その妹さんは17の時にリクさんの反対を押しきって結婚した。
次の年には空くんが生まれた。
リクさんは、妹さんの旦那さんのことをあまり気に入ってはいなかったらしいのだけど、これで、少しは父親らしくなってくれるかと考えていたらしいのだけど、海さんの旦那さんは、リクさんが思った通り、ろくな男ではなく、家庭を顧みることもなく、毎日、遊んでばかりだったんだって。
しかも、空くんには心臓に疾患がみつかった。
それも、早く手術をしないと命に関わるような重篤な疾患だ。
それが分かっても、旦那さんは何も変わらず、結局、海さんはそんな旦那さんに愛想を尽かして離婚した。
そして、海さんが空くんを引き取って育てることになった。
リクさんと海さんは、それから莫大な手術費用を準備するため、がむしゃらに働いたそうだ。
その甲斐あって、空くんの手術は無事に成功した。
だけど、空くんはまだ小さいし、手がかかる。
それに、今までもしょっちゅうお互いの家を行き来してたから、最近、二人は一緒に住むことにしたってことらしい。



「空はまだ赤ちゃんの時に父親と別れてるから、父親の記憶はまったくない。
それで、俺のことをパパだと思ってるんだ。」

「そんな…」

じゃあ、リクさんは…結婚もしてなきゃ…
私のことを想ってクロウさんに相談したのも、すべて本心からしたことなの!?
私が誤解してたってこと!?
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