人間嫌いの小説家の嘘と本当

気がついた時には、まるで呼吸の仕方を忘れたように息を吐き出すことが出来なくなっていた。

ハッ、ハッ、ハッ……。

胸を掴むように服を握りしめ、浅い呼吸を繰り返しながら壁伝いに進み路地裏に逃げ込む。

人ひとり居ない街灯の無い薄暗い路地裏。
私は少し進んだところで膝を折り、崩れるようにしゃがみ込んだ。

苦しい……このまま、私死んじゃうのかな。

恋人に振られて過呼吸で死ぬなんて情けない。
明日のローカルニュースで、自分の名前が呼ばれていることを想像して慌てて搔き消した。

死にたくない……過呼吸の対処法ってなんだったっけ。
確か、あの人の小説に書いてあったような――。
そうだ。紙袋……袋で口を覆って……。

意識が朦朧とする中、急いでみんなから貰ったお祝いの品をひっくり返す。
そして、花束が入っていたビニール袋を口元にあて呼吸を繰り返した。

出来るだけゆっくりと、吸って吐いてを繰り返す。

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