人間嫌いの小説家の嘘と本当
「はいはい、そういう事にしといてあげる」
まだ可笑しそうに笑みを浮かべながら、私の前にコースターを置き、オレンジ色のシャンパングラスを差し出す。
私は、納得できないと思いつつもグラスに口をつけ一口飲み込んだ。
あ……美味しい。
マスターのお店は、路地の奥にあるせいか客数は少ない。
この日も私たちの他には、自分たちの世界に浸っているカップルが一組と、会社帰りなのか、静かにお酒を楽しんでいる年配のサラリーマンが一人居るだけ。
どうやって成り立っているのか、不思議なくらいだ。
けれど客数が少ないからこそ、侑李のように目立つ容姿の人でも、ゆっくりお酒を楽しめるのかもしれないとも思う。
そう考えれば、ここは貴重な場所と言える。
侑李にとっても、そうなんだろう。
身の危険があっても、ココに行こうとするんだから。
その後、私たちは二時間ほどマスターとお喋りをしたりしながら過ごしお店を後にした。