人間嫌いの小説家の嘘と本当

もう少しで家に帰れるって言うのに……私一人なら、走れば撒けるかもしれない。
だけど残念ながら、侑李はそこまでの体力があるかどうか微妙だ。
きっと家に辿り着く前に息が切れてしまうだろう。

ここで片付けるしかない――。
私は、侑李を庇うように一歩前に出て攻撃に備えた。



「そこにいるのは、誰?」



緊張感が空間を支配していく。

真夜中。人通りも車もない静かな闇の中。
自分の心臓の音だけが響いているような気がした。

闇の中から、ジャリと一歩踏み出す音が鳴り足が現れる。
心臓が早鐘のように鳴り響くのに、頭はスーッと冴えて集中力が増していく。



「……涼花?」



半信半疑の声が小さく耳に届き、息を飲んだ。
それは、少し前まではよく耳にしていた声。
とても愛しくて、ずっと一緒にいると思っていた大切な人。



「真幸、なの?」


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