人間嫌いの小説家の嘘と本当
一気に緊張感から解放され、両腕を降ろす。
けれど次の瞬間には違う感情が沸き起こってきた。
「蒼井の知り合いか?」
何も知らない侑李は、私を見下ろし無邪気に聞いてくる。
けれど、その声も私にはうっすらとしか届いていなかった。
「どうして……今更、何しに来たの?」
あの夜のことが、今でも鮮明に思い出される。
治りかけた傷跡に塩を刷り込まれるように、ジクジクと胸が痛む。
叫んでも喚いても、誰も助けてはくれない。
むしろ奈落の底に突き落とした張本人は目の前の男。
あの日、侑李に会っていなければ今頃どうなっていたか、今の私には想像もつかない。
「冷たいこと言うなよ。俺とお前は、結婚を誓いあった仲じゃないか」
そうよ。だけど、それをぶち壊したのも貴方。
なんで、そんなにも平然と言えるのだろう。
あの日から、二ヶ月と経っていないのに――。