人間嫌いの小説家の嘘と本当
暫くして呼吸が落ち着き始めると、脳に酸素が行き渡ったのか、思考が回復し真幸との思い出が駆け巡る。
再びジクジクと悲鳴をあげ始める心。
「ま、さき――」
彼の名前を呼び、また頰を涙で濡らした。
数時間前までは幸せいっぱいだったのに、こんなことになるなんて、未だに信じられない。
「っ、く……ふっ、うぅ……ばかバカ馬鹿。真幸のバカー!!」
その声は誰に届くことなく、虚しく裏路地に響き消えていく。
好きだった。初めて自分から好きになった人だったから、尚更悔しさが込み上げてくる。
失恋がこんなにも、痛いなんて初めて知った。
痛くて、苦しくて、何かに押し潰されてしまいそう。
誰か助けて――。