人間嫌いの小説家の嘘と本当

「貴方に言われる筋合いは無いわ」



この男に抱いていた感情が急激に冷めていくのが分かる。
なんでこんな人を好きだと思ったのか、今になっては不思議でならない程だ。



「なんと言おうが、コイツは渡さない」



後から抱きしめる腕の力が強くなる。
それが心地よく、それでいて安心感を与えてくれた。



「俺は諦めない。絶対、涼花を取り戻してみせる。覚えてろよ!」



侑李の自信たっぷりの態度に臆したのか、捨て台詞を吐いて逃げるように去っていく真幸。

二度と彼の元に戻ることは無い。早く私の事は忘れてくれることを祈るばかりだ。

元カレの後ろ姿を、私はジッと見つめていた。
きっと、もう二度と会うことは無いだろう。

学生時代からの、彼との思い出が走馬灯のように駆け巡る。
辛い時もあったけれど、幸せな時間は確かにあった。
こんな形で別れてしまうなんて、あの頃は思いもしなかったけれど。

裏切られ傷ついて、一時期は真幸を恨んだことだってある。
だけど、どこかで彼が戻ってくるんじゃないか。
何かの間違いなんじゃないかって、心の奥で思っていたのも確かだ。

< 111 / 323 >

この作品をシェア

pagetop