人間嫌いの小説家の嘘と本当

「なんだ?」



顔は前を向いたまま、サングラスの奥に隠れた淡青色の瞳だけを動かし私を見下ろす。



「ありがとう」



私は、彼に満面の笑みを浮かべながらお礼を言った。
すると何故か思案するように空を見上げ、呟くように声を漏らす。



「……お前が礼を言うなんて、天変地異の前触れじゃないだろうな」



私の感謝の気持ちを返せ。
やっぱりコイツ、人の気持ちを台無しにするサイテー男だ。

もう二度と、「ありがとう」なんか言ってやらないんだから。
侑李の左脇腹を抓って、早足に彼の横を通り過ぎる。



「痛って、何するんだよ」

「知らない」



振り返ると、訳が分からないといった顔を浮かべていたけど無視。
自分の胸に手を当てて、少しは反省すればいいんだ。
人の気持ちも知らないで、サイテー!

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