人間嫌いの小説家の嘘と本当

「ふ~ん。主人にそんな態度するのか。躾が必要だな」



彼の言葉に、一瞬顔が引き攣る。
躾って……まさか、またキスマーク付ける気?
それとも別の何かなのか。

どちらにしても家はすぐ目の前だし、侑李に危険が及ぶ事はないだろうし、ここは逃げるが勝ちでしょ。
そう思うが早いか私はさらに足を早めた。



「こら、逃げるな。待て」

「何かされるとわかってて、待つバカはいません」



べーっと舌を出して彼に見せると、そのまま家の中に入ろうとして足を止めた。
だって追い掛けてくるはずの侑李が、三叉路の奥を見詰めその場から動かないから。

暗がりに浮かぶ彼の姿が、何故だか消えてしまいそうで不安になる。



「……侑李?」



彼の名前を呼んでも、こっちを見てくれない。
そこに何があるの?それとも誰かがいるの?
気になって来た道を戻り、彼の側まで近づいていく。

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