人間嫌いの小説家の嘘と本当
彼の言葉一つ一つが、体中の熱を顔に集める起爆剤のよう。
その言葉には、主従関係以上の意味がないって事は分かってる。
だけど”それ以上”を期待してしまうのは、きっと彼の声が優しいからだ。
――“恋”なんかじゃ、ない……よね?
チラリ、彼の顔を下から仰ぎ見て溜息をついた。
どちらにしても、この人には逆らえないかも。
と言うか、逆らっても敵わないと言った方が正しい。
「急に大人しくなって、どうした?もしかして、俺に抵抗しても無駄だって事がようやく分かったのか?」
私が見上げていることに気が付いたのか、顔を覗き込むように見下ろしてきて視線が合う。
「べ、別に……それより早く帰ろ。お風呂入りたいし」
見透かすような淡青色の瞳から視線を逸らし、誤魔化すように話題を変えた。
「それは、俺と一緒に風呂に入りたいって言ってるのか?大胆だな」