人間嫌いの小説家の嘘と本当
言葉にならない声が大分離れた後ろから聞こえ振り返る。
膝に手を置き、息を切らしている男がひとり。
この姿をファンの子たちが見たら、嘆き悲しむだろうなぁ。
「もう……だから、付いてこなくていいって言ったのに」
私は来た道を戻り、腰に手を当てながら彼の前に仁王立ちをし大きく溜息を吐く。
事実は小説より奇なり――正に、この言葉に尽きる。
「っ、るさい。俺だって、たまには、走りたく、なったんだ」
肩で息をし額から流れる汗を拭いながら、嘘が見え見えの言葉を吐く侑李。
昨夜だって、しれっと私のベッドに潜り込んで来てたし、部屋を出ていこうとしたら、慌てて付いてこようとする。
いったい何がしたいのか、分からない。
文句を何度言っても暖簾に腕押し状態。
何を言っても無駄だと理解して、最近は諦めモード。
これが私のことを心配してとかだったら良いのになぁ。
時々どこまでか本当で、どこからか嘘なのか分からない。
いつも仮面を被っているように見えて少し悲しくなる。
この先、彼が素顔のままの自分を曝け出してくれる日が来るだろうか。