人間嫌いの小説家の嘘と本当
それは紛れもなく、ポケットに手を突っ込んだまま、目の前に立ち尽くしている彼から発せられたもの。
ジャマ……?
長く雨に打たれていた所為か、思考回路が上手く回らない。
暫く彼の言葉が理解できず首を傾げていると、小さく舌打ちが聞こえ、再び彼が口を開いた。
「あの店入りたいんだけど、退いてくれる?」
顎を前に突き出し、後ろを指し示す。
彼の示した方向に視線を向けると、そこには煌々と輝く深紅のネオンサインが、ひとつ輝いていた。
Crimson Bird……bar?こんなところにお店があったんだ。
なるほど……この人はあの店に行きたい、と。
この道は、人ひとりがすれ違えるだけの細い裏路地。
その通りを私が座って塞いでいるから、あの店に行きたくても行けないってことか……。
不思議と冷静に今の状況を判断することが出来た。