人間嫌いの小説家の嘘と本当
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「っ――」
不意に誰かに呼ばれた気がして、キーボードを叩いていた手を止め頭をあげた。
「どうかなさいましたか?」
香ばしい香りを漂わせた淹れたてのコーヒーをテーブルに置き、櫻井が首を傾げ問いかけてくる。
「いや、別に何でもない……」
気のせいか、と小さく呟き再び視線を画面に戻す。
けれど一度止まった指は動き出すことは無く、一息入れようと眼鏡を外すと、背凭れに体を預け眉間を摘まんだ。
「……アイツ遅いな」
「ゲリラ雨のようですし、バスが遅れているのかも知れませんね」