人間嫌いの小説家の嘘と本当
盗み見ていたのを忘れ、ガラス窓にへばりつく。
灯りは車のヘッドライドと、この事務所らしき部屋の向かい側にある窓から降り注ぐ、淡い月明かりのみ。
けれど彼の白銀の髪だけは、白く光ってその存在を知らせてくれる。
一触即発の雰囲気の中、対峙する侑李たちを目の前に生唾を飲み込んだ。
あっ、侑李に私が無事だって知らせなきゃ。
そうしたら、こんな争いしなくて済むはずだもの。
私は窓を思い切りバンバンと叩いてはみたが、一向に下の彼らが気付く様子はない。
嘘でしょ。なんなのよ、この窓。
苛立ちながらも周りをキョロキョロし、この部屋の唯一の入り口のドアへ向かった。
アルミ製の丸いドアノブに手を掛け回すものの、鍵が掛かっているのかガチャガチャ音がするだけで、何度捻っても開く様子はない。
押しても引いてもダメ。
なんで?早く私は無事だって知らせたいのに。
行かないと乱闘が始まっちゃう。
辺りを見回しても、ガランとした事務所内に鍵らしきものは見当たらない。
下の様子も気になるし、侑李の元に少しでも早く駆け付けたいし、でもドアは開かないしでイライラが募る。