人間嫌いの小説家の嘘と本当

死を覚悟した瞬間、私を呼ぶ声が聞えた。
侑李……こんなところで死ぬわけにいかない。
彼のところに帰るんだ。

手摺りから足を放し、フックめがけ飛び出す。
沈んだ分、力の伝わりが弱く思いのほか飛距離が伸びない。
空中で精一杯手を伸ばし、フックを目指す。



「届けぇー!!!!」



手が届いた瞬間、ガシャン!!と大きな音がしチェーンが揺れる。

ホッとしたのも束の間。
掴んだと同時に振り子のように大きくチェーンが揺れ始めた。
すると掴んだ手に全体重が乗り、それに耐えられずズルリと手が滑っていく。

い、痛いぃぃ――あぁっ!!

錆びて脆くなっていたのか、表面が剥がれ落ち手を傷つけながら滑り落ちる。

このままじゃ、アイツにたどり着くまでに地面に落ちちゃう。
放すもんか。このまま手を放したら怪我じゃすまない。
そんなのは、絶対に嫌だぁ!!!!

手から血が出ているのも構わず必死に掴み直し、一番下のフックでようやく止まった。

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