人間嫌いの小説家の嘘と本当
背中越しに視線を送ると、それに気が付いたのか首だけ後ろに傾けて「悪い」と一言だけ囁き苦笑いした。
「侑李のばか」
「主人に向かって、バカとは何ですか!」
突然の叱咤に首が竦む。
地獄耳とは、まさにこの事。
侑李にだけ聞こえるように小さく呟いたつもりが、櫻井さんの耳には、しっかり届いていたようだ。
「はい!スミマセン!!」
私は反射的に謝ると、その場に正座をし背筋を正す。
その様子を見た櫻井さんは額に手を置き、呆れ気味に大きく溜息を吐いた。
「今回は、お怪我をなさっておいでですし、特別に許して差し上げます。今回だけ、ですからね」
念を押す様に『特別』と『今回だけ』を強調する。
はい、重々承知しております。
主人と使用人では、立場が違うって事ですよね。
ココに来た時から耳にタコが出来る程に聞きましたとも。
あれ?でも、主人と恋人同士になった場合ってどうなんだろう?