人間嫌いの小説家の嘘と本当

「さぁ、私は蒼井様の包帯の交換を致しますから、侑李様はお部屋にお戻りください」



サイドテーブルに持って来た救急箱や替えの包帯を置きながら、有無を言わさぬ迫力で侑李を追い出しに掛る。



「分かったよ」



渋々ではあるけれど、重い腰をあげ立ち上がる侑李。

櫻井さんが侑李の頼みには弱いように、侑李も櫻井さんの言うことは聞くんだよね。
お互いを信頼し尊敬している特別な関係……なんかこう言うのって憧れる。

私も二人のように、お互いが必要としあえるようになれるかな。



「蒼井。また、明日な」



そういうと、頬にチュッと触れる程度の軽いキスをして離れていく。
今まで傍にあった温もりが離れ、急に寂しさを感じる。



「あ、侑李……おやすみ」



もっと伝えたいことは沢山あった筈なのに、口から出てきたのは“おやすみ”の挨拶だけだった。

侑李は首だけをこちらに向け柔らかな笑みを浮かべ「おやすみ」と返す。
そして、すれ違いざまに「蒼井を頼む」と櫻井さんに短く伝えて部屋を出ていった。


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