人間嫌いの小説家の嘘と本当

遠ざかっていく彼の背中を、ドアがパタンと渇いた音を立て閉まるまでジッと見つめていた。

あ~、侑李がとてつもなく可愛く思える。
あんなに柔らかな顔、初めて見た。もうヤバすぎる。



「いい加減、その締まりのない顔止めて貰えますか?さっさとベッドの縁に座って、傷口を見せてください」



櫻井さん、相変わらずの塩対応。
侑李と櫻井さんの余りの違いに、思わず涙が出そうになる。

けれどここは言うことを聞いておかないと、後々受けるであろう説教が長くなるだけだ。

櫻井さんがサイドテーブルに救急箱を置き準備をしている間に、出来るだけ素早く崩れたバスタオルを巻きなおしてベッドの端に座る。



「まずは頭の傷を見せて下さい」



シャワーを被った所為で、ずぶ濡れになったガーゼをゆっくりと剥がしていく。
傷口が空気に触れ、一瞬冷っとし首を竦ませる。



「大丈夫ですか?消毒しますから少し沁みますよ」



心なしか少し優しく聞こえるその声とは裏腹に、消毒液を滲みこませた綿が、患部に触れるたびに刺激が走り、叫びたくなるのを両手で口を塞ぎ、必死に堪えた。


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