人間嫌いの小説家の嘘と本当
櫻井さんによれば、微熱が出ても櫻井さんが何度注意しても、侑李はトレーニングを止めなかったらしい。
私の記憶でも、雨が降っても風が強い日でもジョギングに行っていた。
もちろん台風の日とかは止めていたけれど――。
体に負担を掛けていた挙句、今回の騒ぎ。
今の侑李の体に、何か起きていても不思議はない。
「あなたが来てからと言うもの、侑李様は変わられました。感情が表に出るようになった」
前の侑李がどんなのか正直なところ分からない。
だって出会った時から侑李はワガママで自己中、仕事最優先の男だったから。
なのに侑李が、私の憧れの作者だって知って……。
うんん、それだけじゃない。だんだん彼の言動の中に優しさがあるって気付き始めてからは、毎日が楽しくて仕方なかった。
「私が侑李様のお傍に使えて二十五年。私が出来なかったことが、たった数ヶ月であなたはしてしまわれた」
急激な子離れに、戸惑っている父親のように苦笑する櫻井さん。
そして「あなたがこの屋敷に来てくれて、良かった」と私の手を取り頭を下げた。
「私は何もしていません。救われたのは私の方です。侑李と出会えて……ココに来れて良かった」