人間嫌いの小説家の嘘と本当
彼の服の袖を引っ張って、頬にキスを落とし感謝の気持ちを伝えた。
今回の件だけじゃない。侑李は何度も私を助けてくれた。
何度言っても足りないくらい感謝している。
「何だよ、気持ち悪いな……ソレ、何?」
憎まれ口を叩いた割には、耳が赤く染まっている。
本当、素直じゃないんだから。
ニヤけそうになる頬を引き締め、侑李が話を逸らそうと示した、彼の視線の先にある写真立てを手にした。
「コレ?これは私の両親。家族写真、これしか無いんだ」
「へ~優しそうな人達だな」
両親の記憶は、余りにも少ない。
けれど私の中の両親は、どんな時も優しくていつもニコニコしている。
そんな両親を私は尊敬をしていると同時に憧れている。
「私ね、お父さんとお母さんのような夫婦になるのが夢なの」
「……そうか。いいんじゃないか」
あれ?一瞬侑李の表情が曇った気がしたけど気のせいかな。
右手で口元を覆い、何かを思案している仕草を見せ、ふいっと向きを変え歩き出した。