人間嫌いの小説家の嘘と本当
彼らが入っていったのは、高級宝石店。
海外でも有名なブランドだ。
ガラス張りの店内。
私が入るには敷居が高くて、外から仲良く寄り添う二人の様子を伺う。
すると、ある一角で女性が店員を呼びケースから何かを出して貰う姿が見えた。
隣では侑李が静かに彼女を見守っている。
これ以上見てはいけないと、頭の奥で警鐘が鳴る。
けれど私の足は、そこに根が張ったように動かず、視線も二人から逸らすことが出来なかった。
暫くしてケースから取り出されたひとつを、指にはめ目線の位置に掲げる彼女。
彼女が指輪をはめている指は、左の薬指。
幸せそうに笑みを浮かべ見つめ合う二人。
これが意味するものは明白だ。いくら鈍感な私でも分かる。
信じてたのに――。
奥歯を噛み締めた瞬間、侑李が私の視線に気が付いたのか振り返った。
「ッ……ヤバイ、見つかる」
顔が私に向く既のところで店の路地に入ったから、多分見られてはいないと思う。