人間嫌いの小説家の嘘と本当

診察室から出る直前、そう声をかけられたが、いまいち理解が出来ず、お礼だけ言って部屋を出た。



「あー、本当に酷い顔」



病室に戻って、洗面台の鏡の前で自分の顔を見る。
入院してからというもの鏡の前にたった記憶がない。
改めて自分の顔を見て驚いた。

目の下にはクマが出き、肌はガサガサ。
二十代とは思えない老けっぷり。

後で看護師さんが睡眠薬を持ってきてくれる筈だから、今日は少し眠れるといいな。

ベッドの端に腰掛け、ふーっと息を吐く。
失恋した恋の忘れ方って、どうするんだっけ。

まだ「別れよう」とは言われてないから、失恋とは言えないのかもしれないけれど、あの二人を見たら秒読み段階だ。

だから会いたくないと思ってしまうのかもしれない。
侑李から、決定的な言葉を聞くのが怖くて――。

真幸の時は、侑李のおかげで振り回され、こんな事を考える暇なんて無かったから、改めて考えるとよく分からない。

みんな、どうやって忘れてるんだろう。

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