人間嫌いの小説家の嘘と本当

「無理。俺、お前がいないと寝られない。大人しくしろ」

「わっ」



無理矢理、布団を私の上に掛けて引き込む。
そしてあっという間に、隣から寝息が聞こえ始めた。

嘘でしょ……どんだけ寝つきが良いのよ。
でも急いで小説書き上げたみたいだし、疲れてたのかな。



「仕方ないなぁ」



諦めて私も目を閉じた。
背中に感じる侑李の体温が温かくて気持ちがいい。

今までろくに寝ていなかったから、彼の寝息が子守歌の様に聞え、だんだんと瞼が重くなっていく。

そして夢を見た――。
いつか見た男の子じゃなく、真っ暗な闇の中に幼い私の声だけが広がる世界。



『お兄ちゃんの目、お月さまみたい。すごくキレイだね』



幼い頃、誰かに言った言葉。あれはいつの事だっただろう。
私は一人っ子だから、お兄ちゃんはいない。
だから何処かで会ったはずの男の子。

< 286 / 323 >

この作品をシェア

pagetop