人間嫌いの小説家の嘘と本当
本当に綺麗……まるで、絵本から飛び出てきた王子様みたい。
近づいてきて、私のこめかみにキス――するかに思えた。
しかしーー。
「……ま、その前に風呂入れよ。臭い」
そう言い残して、彼は部屋を出ていく。
クサ……臭いって、そんなに臭うの私?!
あまりのショックに二日酔いがどうとかは、この際どうでも良くなっていた。
私は、腕やら髪やら鼻が届く範囲で臭いを嗅いだ。
うっ……酒だか泥だか生臭い臭いがする。
ていうか普通、女に臭いだなんてストレートに言う?
例え本当に臭ってても、そこはオブラートに包もうよ。
昨日……何があったんだっけ。
確か、雨に打たれて……月が綺麗で――。
断片的に記憶が甦るけれど霞が掛かったみたいに、ハッキリとは思い出せない。
それからどうしたんだっけ?
あ、そう。誰かとお酒を飲んでいた……ような?
そもそも何で雨に打たれて……昨日、いったい何が――。
何か重要なことがあったような気がする。
思い出そうとするけど今は頭痛が邪魔をして、これ以上思い出すのを拒む。