人間嫌いの小説家の嘘と本当
「何でかくすの?」
「何でって……こんなの気持ち悪いだけだろ」
今までの人達を思い出し、悲しくなる。
どうせ、この子も気持ち悪いって思ってるはずだ。
「どうして?まるでお月さまみたいで、すっごくきれいだよ」
言われたことのない言葉に戸惑いを隠せず、彼女を見つめた。
髪の隙間から見える少女は、屈託のない笑みを浮かべ嘘を付いているようには見えない。
血の繋がった家族からは、逆の言葉で罵られ責められて来たのに。
俺が、綺麗だなんてーーそんな風に言われたの初めてだ。
ふと心の中に温かな光が灯った気がした。
「んー。あ、これお兄ちゃんにあげる」
何を思ったのか、不意に自分の髪留めを取って俺の前で背伸びを繰り返す。
思わず膝を少し折って彼女と目線を合わせた。
すると俺の前髪を掬ってパチンと、それで止め満足そうに微笑む。
「すごく、にあってる」
ニコニコと笑顔を浮かべる彼女に、要らないとは言えず、ただ無言で髪留めに手を触れた。