人間嫌いの小説家の嘘と本当
「侑李、起きて」
体を揺さぶる感覚に意識が浮上してくる。
薄く目を開けると、眉を下げ困ったような表情を浮かべる涼花の顔が見えた。
「私、先に行ってるね」
二十年前の夢を見たせいか、彼女が俺の知らない場所へ行ってしまいそうで、思わず背中を向ける彼女の腕を取り引き止める。
だけど掛ける言葉が見つからなくて、いつも口癖のようになってしまった言葉を吐いた。
「走るな、よ」
「分かってるって」
そういうと、まだ大きくもなっていない彼女の下腹部へと俺の手が誘われ当てられる。
心音も何も感じない。だけど、ココに俺と涼花の子が宿っている。
そう思うと不思議でならない。
「大丈夫だよ」
優しく微笑む顔は、母親そのものだ。