人間嫌いの小説家の嘘と本当
俺の母親も、子供が出来たと知った時にはこんな顔をしていたのかもしれない。
「向こうで待ってるね」
「あぁ」
俺に軽く手をふる彼女に短く答える。
涼花は笑ってる時も言いけど、恥ずかしそうしている時も堪らなくいいんだよな。
そう言えば、あの時も凄く驚いてたっけ。
むくりと体を起こし、ミネラルウォーターを小型冷蔵庫から取り出し一口喉に流し込んだ。
あれは涼花が入院している病院に行った日。
その日の夜は激しくお互いを求め合い、深夜まで抱いて、心地よい微睡に吸い込まれそうになっていた時だったな。
まだ日も昇っていない明け方だったか――。
不意に俺の髪を撫でる感触に目が覚めた俺は、涼花を驚かせようと、暫くの間寝たふりをしていた。
「綺麗……」
むず痒くなる言葉に耐えていると、クスクス笑う声が聞え俺は目を開けた。