人間嫌いの小説家の嘘と本当
「綺麗ですね……その花は?」
「昨晩、貴女様がお持ちになった花でございましょう?」
昨日、私が持っていた?
ふっと記憶が過ぎる。
そうだ。これは、退職の時に皆から貰った花束。
結婚式には呼んでねって言ってくれた、同僚の笑顔が浮かぶ。
ようやく私も幸せになれる、そう思っていた。
だけど目の前には、頭を深く下げて謝る真幸の姿。
そして別れの言葉を告げられた。
そうか……あれは、現実の事だったんだ。
夢でもない。本当のこと――。
思い出して目頭が熱くなる。
「お風呂の用意はしてございますので、いつでもどうぞ」
「はい……え、と。お風呂って何処ですか?」
鼻を啜り、返事をしたものの場所がわからない。
このままじゃ、入りたくても入れないし本末転倒だわ。