人間嫌いの小説家の嘘と本当
バスタブには既に湯がはってあり、何時でも入れるようになっている。
洗面所の横には様々なアメニティが揃っていて、まるでホテルの様。
その中には入浴剤もあり、私はその中からお湯が淡いピンク色になるという、ホワイトローズの香りの入浴剤を使わせてもらうことにした。
「ん~良い気持ち」
温かい湯に体を沈め手足を伸ばすと、心が解けていくように全身の力が抜けていく。
それと同時に、昨日の事が思い出され涙が頬を濡らす。
悔しい……どうして、あんなことになったんだろう。
彼に裏切られてしまった理由が、未だに分からない。
広いバスタブの中で、膝を抱えて静かに泣いた。
昨日もあんなに泣いたのに、まだ出るなんて人間って不思議。
あ、そう言えば……昨日、あの人に会ったんだ。
泣いて喚いて雨に打たれて自暴自棄になりかけていた時、声を掛けてきたのが彼だった。
名前は……そう、侑李。マスターが、そう呼んでいたのを思い出す。
そうか、彼が侑李様だったんだ。顔と名前が一致して嬉しくなる。
けれど彼が言っていた“約束”とやらは思い出せない。
何を約束したんだろう。したとすれば、あのbarでのことだと思うけれど、お店を入ったところまでは、思い出せるんだけどなぁ。