人間嫌いの小説家の嘘と本当

俯く彼を見つめながら、静かに言葉を発する。
すると思っていた反応と違うのか「えっ?!」と小さく声を漏らしゆっくりと顔を上げ瞳を揺らしながら私の様子を伺う。
けれど、目が合ったと思ったらまた直ぐに俯いてしまった。

相手の事なんて言う訳ないか……。
私自身こんなことを聞く時が来るなんて思ってもいなかった。
真幸とずっと一緒にいるって思っていたから。
まさか捨てられる日が来るなんて――。

諦めようとした時、蚊が鳴くような小さな声が聞えた。



「と、取引先の……の娘……」



一瞬空耳かと思ったけれど、彼の様子を見てどうやら聞き間違いでは無いと確信した。
だって彼の方は震え、声もまるで泣いているようだったから。

意図せず、溜息が一つ零れ落ちる。
泣きたいのは私の方だ。
二股を掛けた方が泣くのって、どうなの?

< 4 / 323 >

この作品をシェア

pagetop