人間嫌いの小説家の嘘と本当
「珍しいこともあるものねぇ。他人を傍に置くなんて」
個室に入ると、私の髪を触りながら鏡越しに話しかけてきた。
私を担当する美容師さんは、少しおネェが入っているのか女言葉を使っている。
見かけは、ガッツリ系の細マッチョ男子なのに――。
「そうなんですか?」
「知らないの?あの人、人間嫌いで有名なのよ」
へぇ~人間嫌いなんだ。
ま、外見も外国人みたいだし笑ったところをあまり見ない。
絶対、友達は少ないと思うけど――。
だったら、なんで私と一緒に住むなんて言ったんだろう。
あの夜、初めて会ったのに……変なの。
「昼間に、この店に来たもの何年振りかしらね。しかも女を連れてくるなんて」
興味深々に鏡越しに私に視線を送ってくるけれど、曖昧に笑って誤魔化した。
だって彼のことを何一つ知らないのだから、話しようがない。
なぜあの夜出会っただけの女に、ここまでしてくれるのかも分からない。
彼の言う"約束"が、きっと何か関係しているのだろうけれど今はまだ思い出せない――。