人間嫌いの小説家の嘘と本当
彼からの言葉なんか期待しない。それでも、お礼を言いたかった。
案の定、彼は何も言わずに淡々と歩みを進めていく。
ふふっ。この一日で少しだけ彼の一面を知れた気がする。
気難しくて、ちょっと俺様。だけど本当は優しい不器用な人。
辺りは夕陽に包まれて、オレンジ色に染まっていた。
「少し寄り道をする」
不意に、そう言うと駐車場とは反対側に足早に歩き出した。
他にどこか寄ることろがあるんだろうか。
今に始まったことではないので、何も疑うことなく彼についていく。
けれど大通りを外れ、どんどん細い道へと突き進む侑李。
人とすれ違うことも少なくなり、だんだん不安になってきた。
「ねぇ、何処に行くの?」
目的地があるようには思えなくて、つい口に出してしまう。
また、煩いって怒られるかな?
「静かにしろ」