人間嫌いの小説家の嘘と本当
返ってきた言葉は、思っていたものとは少し違っていた。
それは緊張感に包まれていて彼の横顔を見上げれば、辺りを警戒するように険しい表情をしている。
何かある……そう思うには、十分だった。
「ね。もしかして、誰かに追われてる?」
特に何かの気配を感じるとかはない。
けれど私の第六感が警鐘をならしている。
「だったら?」
「そうね。こうする」
彼の左手を掴み、ダッシュ。
ヒール五㎝のパンプスを履いているとは思えないほどの全力疾走ぶり。
不意を突かれたのか、最初は引っ張られ気味だった侑李の手も強く握り返されて、今は一緒に走ってくれている。
少しして気が付いた。
確かに、彼が言ったように後ろから数人追いかけて来ているみたいだ。
何が目的なのかは分からないけれど、多勢に無勢。
私、卑怯なのは大嫌いなのよね。