人間嫌いの小説家の嘘と本当
私と結婚して、あわよくば彼女とも付き合い続けるなんて思っていなかったでしょうね。
「それは……」
煮え切らない返事に、更にイライラが募る。
奥歯を噛み締め、まだ俯いたままの彼を睨みつけた。
なんなの?ハッキリしてよ。
真幸って、こんなに優柔不断だったっけ?
「私と彼女と、どっちが大切なの⁈」
言葉と共に、気がついた時には彼と挟んだテーブルに片手を叩きつけていた。
その拍子に珈琲カップがカチャンと音を立てソーサーの上で揺れる。
そんなに強く叩いたつもりは無いけれど、元々静かな店内が更に静けさを増し、周りの視線が私たちへ集中する。
けれど、それらに気を向ける余裕は無い。
「い、今は彼女……です」
尻すぼみになった言葉は、最後の方は聞き取れないくらい小さな声だった。
その瞬間、彼と過ごした五年間が私の中でガラガラと、脆くも音を立てて崩れて行くような気がした。