人間嫌いの小説家の嘘と本当
全く、人をなんだと思ってるのよ。あの男は!!
寝ている人を襲うほど男に困って無いっていうの。
第一、もう恋なんて……あんな惨めな思いするくらいなら要らない。
ふと真幸の顔が思い浮かんだけれど、直ぐに振り払った。
それにしても、この部屋には本がたくさん並んでいる。
壁一面は本棚で埋め尽くされていると言ってもいい程だ。
その中でも目を引くのは、ある作家の作品。
私は、その中から一冊手に取ってパラパラとページをめくった。
あ、これ最新作だ。買おうと思っていたけど、仕事の引継ぎとかで忙しくて、そこまで気が回らなかった。
侑李って、鳳 白哉(おおとり びゃくや)のファンなのかな。
彼の性格上、べらべら喋るタイプとは思えないけど好きな物なら少しは話が弾むかもしれない。
それに私もこの作家の作品は、処女作からずっと読んでいて、どれも読み終えたあとの独特な余韻が堪らなく好きなのだ。
作品の多くは社会問題から生まれる犯罪を扱ったもので、犯罪の背景や加害者と被害者の心理や人間模様などを丁寧に綴っている。
鳳作品が好きすぎて書店員を目指した程だ。
誰よりも早く新作を手に出来る。
不純な動機ではあるけれど夢の職業だと思ったから、大学を卒業して地元の書店へ入社した。