人間嫌いの小説家の嘘と本当
入社したての頃を懐かしく思い出しながら、最新作を読みはじめる。
すると直ぐに物語の中へ引きこまれ、いつの間にか夢中になって読み進めていた。
「あ、最新作ですね。そのシーン、いいですよねぇ」
ふいに、耳元で聞こえた声。
その声に現実に引き戻され顔を上げる。
すると、にこやかな笑みを浮かべた見かけないスーツ姿の青年が目の前に立っていた。
「え、と……誰?」
「すみません。部屋に入るときにノックをしたのですが、本に夢中になっていたようなので――」
嘘、本に集中しすぎて全然気が付かなかった。
これってボディーガードとしては、致命的じゃない?!
慌てて本を閉じソファから立ち上がる。
「気が付かなくて、すみません」
「いえいえ気にしないでください。同僚からも影が薄いってよく言われますから」
自虐的なことを言いつつ、彼のにこやかや笑顔はその場を和ませてくれる。
「申し遅れました。僕は、有栖川と言います」